マニラ在住日本人から見て気になったフィリピンのニュースをピックアップ!
ASEAN特別首脳会議で来日中のフィリピンのアキノ大統領は13日に行われた安倍首相との会談で、中国が東シナ海に防空識別圏を設定した問題を自ら切り出し、中国の脅威に対して日本と連携したい考えを伝えた。
ASEAN諸国は経済面で中国との結びつきを強めており、各国首脳とも中国との関係悪化を懸念してこの問題についての発言を控えている。その中でフィリピンは日米との連携を明確に打ち出し、他のASEAN諸国と異なる姿勢を鮮明にした。
元の記事を読む→ 【2013年12月13日:読売新聞】
ASEAN東京会議を前にアキノ大統領が中国問題で日本寄りの姿勢をビシッ!と示してくれました。ありがとうございます、ノイノイ閣下。
しかしですが、残念ながら中国様にとっては痛くも痒くもくすぐったくもないでしょう。フィリピンが日本側についたところで、ASEANとして一致団結して対中国でまとまることなどあり得ないからです。
まずASEAN内で中国と現在進行形の領土紛争を抱えているのはフィリピンとベトナムだけです。10ヶ国の内2ヶ国だけです。領土問題について明確に反中国を打ち出す必要性に迫られているのは最大でも2ヶ国にすぎません。カンボジアとラオスに至っては、むしろ中国様と積極的に仲良くしたくてしょうがないモード全開です。
また、ASEANにとって中国は最大の貿易相手国です。防空識別圏が南シナ海に拡大されることに懸念は当然持っているでしょうが、下手に中国を刺激して経済面で不利益を被りたくないというのが正直なところであるはずです。
となると、今回の会議で中国の防空識別圏問題に対してASEANの総意として中国への批判なり懸念なりを示せるかというと、それはまずあり得ないのではないでしょうか。
アキノ大統領がビシッと言ってしまいましたので、恐らく中国外交部の洪磊報道官あたりが「強烈な不満を表明するアルヨ!」ってなご発言をなさることでしょうが、腹の中ではきっと「日本ざまぁ~」と大笑いしてるかと思うと、ただでさえ暑い気温32度のマニラで暮らしているのに、さらに体温が上昇しそうです。
ではASEANの対中国の姿勢に対して、我が国として打てる手はあるのでしょうか?
そもそもASEAN諸国が中国の顔色をうかがうのは、中国が政治と経済を結びつけるからです。「政治面で俺っちに楯突いたら経済面でいじめるぞぉ~!」ってことでして、事実、フィリピンは昨年バナナで思いっきりいじめられました。行き場を失ったバナナが大量に日本に流入し、日本全土がバナナの叩き売り状態になったことはみなさんの記憶にも新しいことでしょう。
ってか、バナナでいじめるってさ、小学生じゃないだから。常任理事国のやるこっちゃないだろ。笑
要は中国を怒らせたら不利益になるってことです。それが分かっているから、のび太もスネオもしずかちゃんもジャイアンの顔色をうかがうしかないわけです。
では日本はジャイアンになれるか? タイやマレーシアやインドネシアに対して、中国の側に付いたらトヨタとスズキとパナソニックの工場撤退させるぞ~!って脅せるか? んなことできるわけありません。民主主義国としてできませんし、撤退したら速攻で、フォードとワーゲンとハイアールが跡地に進出してくることでしょう。
東南アジアは親日国が多いからってなことを言う方もいらっしゃいますが。タイにしてもマレーシアにしてもインドネシアにしても、親日である前に親タイであり親マレーシアであり親インドネシアであるわけです。日本のために中国を敵に回して国民に冷や飯を食わせるか? それはあり得ないでしょう。
って考えていくと、現状において日本に打てる手があるのか、非常に暗澹たる思いになるのであります。
では、フィリピンは中国に歯向かって大丈夫なのでしょうか? 正直よく分かりません。経済は弱いものでして。
国名 | シェア |
---|---|
日本 | 19.0% |
アメリカ | 14.2% |
中国 | 11.8% |
シンガポール | 9.4% |
香港 | 9.2% |
フィリピンの貿易に中国がどれくらい影響があるのか、外務省の資料から調べてみました。(2012年、出典:外務省フィリピン基礎データ)
これによると、フィリピンにとっては中国よりも日本やアメリカのほうが影響力が強いようです。中国の11.8%というのも小さくはない数字ですが、日米合わせると3分の1ですので、どちらを選ぶかとなると中国よりも日米なのでしょうか。
それともう一つ。出稼ぎ労働者です。国民の10人に1人が海外に出稼ぎに行っているフィリピンにとって、出稼ぎ労働者はバナナ以上の輸出産品です。2011年のデータで見てみましょう。(出典:Commission on Filipinos Overseas)
国名 | 人数(万人) |
---|---|
合計 | 1,046 |
アメリカ | 343 |
サウジアラビア | 155 |
カナダ | 84 |
アラブ首長国連邦 | 68 |
マレーシア | 57 |
日本 | 22 |
中国 | 20 |
左の表はフィリピン人の出稼ぎ先トップ5ヶ国及び日本と中国です。ご覧のとおり、圧倒的トップがアメリカです。アメリカだけで3分の1です。日本は年々減ってきて22万人です。
では中国はというと20万人です。しかし、この数字は香港を加えたものでして、中国大陸だけだと2万7千人にすぎません。アメリカの100分の1以下にすぎないのです。
こうやって見てみますと、なんのことはない、フィリピンにとってのジャイアンはアメリカ様だった、と。何とも物悲しいフィリピンであります。